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LIBRARYラボ・ライブラリー

専門家の声

慶應義塾大学名誉教授
言語学者

鈴木 孝夫

SUZUKI TAKAO

日本文化の発信ができる外国語教育を

英語は,世界の共通語というほかの言語にはない性格を備えています。英語を話すことさえできたら,世界のどこへ行っても不自由することはありません。 こういう時代に,わたしたちは,アメリカ式,イギリス式英語ではなく,国際共通語としての英語を勉強するという認識をもつべきでしょう。 日本の社会や教育は,いまだに西欧社会に「追いつけ追いこせ」の精神を引っ張っている感があります。明治時代からずっと積極的に西欧化してきた影響で, 日本のほしいアメリカ,日本の好きなイギリスばかりを吸収し,不自然に理想化してとらえる傾向があるのです。しかし,それでは真の国際理解とはいえません。 外国語を学ぶには,まず自国の‘cultural identity’をしっかりもつことが大前提でしょう。日本のことばや文化をしっかり学び,そのうえで外国語を学ぶという姿勢がたいせつです。 英語を話す個々の人間についても同じです。ちょっとくらい発音が悪くとも,l と r の音が聞き分けられなくともよいのです。むしろ話す内容に重点を置いてほしいと思います。 なにより,人間的に内容のある‘unforgettable person’になることのほうがたいせつです。また,地球規模をカバーできる言語として英語はもちろんたいせつですが, 現在の日本が置かれた国際政治的,地理的状況を考えると,韓国語(朝鮮語),中国語,ロシア語など,近隣の国の言語を子どもたちにもっと学んでほしいと思います。 大学もカリキュラムに外国語の選択肢をもっと増やす必要があるでしょう。ラボが,日本語をたいせつにしつつ多言語活動にも挑戦し, 子どもたちにいろいろな言語に開かれた耳をつくる機会をあたえているのは画期的な試みだと思います。海外の国ぐにに学ぶいっぽうではなく, 外国語で日本の文化や自分自身について十分表現できる子どもたちが多く育ってほしいと願っています。