There was once a Little Dressmaker who was apprentice to a Big Dressmaker.
むかし，おおきな仕立屋さんの見習いをしている，ちいさな仕立屋さんがおりました。
But although she was only an apprentice
ちいさな仕立屋さんはまだ見習いなのですが，
she cut her patterns so beautifully, and took her stitches so daintily,
とてもきれいに型紙を切れましたし，針の目はとても繊細で，
and had such charming fancies about the frocks she made,
人びとをうっとりさせるようなドレスをつくることができたので，
that she was really the best dressmaker in the kingdom,
王国一の仕立屋といってもいいくらいでした。
and the Big Dressmaker knew it.
もちろん，おおきな仕立屋さんは，このことに気づいていました。
But the Little Dressmaker was so young and so modest, that the Big Dressmaker said to herself:
けれども，ちいさな仕立屋さんがまだ若く，つつましいのをいいことに，おおきな仕立屋さんは，こんなふうに考えたのです。
“There is no need to tell Lotta she is a better dressmaker than I am.
「ロッタのほうがわたしよりも腕がいいだなんて，あの子にいうことはないのよ。
If I don't tell her, she will never find out for herself,
だって，わたしがいいさえしなけりゃ，あの子がそれに気づくなんてありゃしないしね。
and if I do tell her she will go away and set up a Rival Establishment.”
話してしまったら，きっとあの子は出て行って，商売がたきになるに違いないわ」。

　さて，この国の女王さまにはひとつ心配ごとがありました。それは，自分の国を継ぐことになっている隣の国の王，甥のリチャードがまだ独身なこと。まだ若いリチャードは結婚に興味がありませんでしたが，とうとう「女王さまの国に行って，花嫁候補の令嬢３人と毎日ひとりずつ舞踏会で踊り，気に入った令嬢と結婚する」と受けいれることに。女王の選んだ３人の令嬢は，すぐにおおきな仕立屋さんに最高に魅力的なドレスを注文し，着付けにはお針子さんも送ってくれるようにと頼んだのです。おおきな仕立屋さんから話を聞いたロッタは，寝ずに働いてドレスをつくりました。そしてできあがったドレスを着てロッタが宮殿に行くと，毎回，召使いが出迎え，控えの間に案内してくれました。その召使いはロッタのつくったドレスをほめてくれ，ふたりは語り合い，ダンスを踊るのでした。連日徹夜で３枚のドレスをつくり疲れ果てたロッタが，宮殿から店に戻ると，女王さまからウェディングドレスの注文が届いていました。結婚相手をきめたという王さまは舞踏会の日，なんと召使いの服を着ていたというのです。

　イギリスのエリナー・ファージョンの作品です。ファージョンはこの物語をふくんだ短編集『ムギと王さま』で，イギリスの文学作品に贈られるカーネギー賞を1955年に受賞。翌年には国際アンデルセン賞作家賞に選ばれ，「イギリスのアンデルセン」とも呼ばれました。幼い頃からロンドンの自宅にあった「本の小部屋」で過ごした多くの時間は，ファージョンの作家としての才能を大きく開花させたようです。

　この作品には昔話のおもむきが感じられます。たとえば仕立屋のロッタと，隣国の王さまという極端に身分のちがうふたりの関係。３人の令嬢に３枚のドレスと，３回のくり返し。そのたびの召使いとの決まった会話のくり返し。これらは口伝えで伝わる昔話の特徴です。さらには映像があるわけではないので，この物語にあるような「お日さまのように／月のように／虹のように美しい」といった表現に，聞き手は想像をふくらませ，楽しむことができるのです。

　物語の最後がハッピーエンドで終わるのも，昔話のもち味です。この物語の主人公のロッタは，自分の努力でドレスを縫い，最後には幸せを手に入れます。ファージョンは昔話のかたちを使いながらも，最後のハッピーエンドにちょっとしたサプライズを加えました。どんなサプライズだったのでしょう。ぜひロッタの活躍にドキドキしながら楽しんで聞いてみてください。