This month's
story今月のお話

PRINCESS URIKO AND AMANJAKU 瓜コ姫コとアマンジャク

2023年10月の紹介

PRINCESS URIKO AND AMANJAKU

とアマンジャク

むかし,年をとったじっさとばっさがおった。
Once upon a time there lived an old man and an old woman.
ある日,じっさが山へしば狩りに行って,
One day, the old man had gone off to the mountains to gather kindling.
ばっさは川へせんたくにいっておると,
The old woman went to the river to do her washing
川上から瓜コが一つ,チンボコカンボコと流れてきた。
when an Uri – or cucumber melon – came bobbing and hobbing along from upstream.
ばっさはそれをひろってもってかえって,
The old woman took it from the water home
じっさが山からもどってきたら,いっしょに食うべと思って,たなの上にのせておいた。
and put it on the shelf all ready to eat with the old man when he'd come back from the mountains.
夕ぐれがた,じっさは山からもどってきた。
Toward evening the old man came back.
「ああ,のどがかわいたぞえ。
“Oh, my throat's dry as a bone.
ばっさばっさ,水コいっぱいくんでくれ」
Granma, go and get me some water, will ya.”
「じっさじっさ,
“Granpa, Granpa,
おら,水コよりええもんをとっておいたから,
I've got somethin' much sweeter for your throat.
それを食べもうそう」
It's just beggin' to be eaten.
ばっさは,たなの上から瓜をおろしてほうちょうで二つにわった。
And having said this, she took the Uri off the shelf and cut it clean in half with a cutting knife.
すると中から,美しいちっこい女の子が生まれて出た。
And when it split a lovely, teeny little girl popped to life from its insides.

 じっさとばっさは女の子に「瓜」となづけ大切に育てました。瓜が年ごろになったある日,じっさとばっさは嫁入り道具を買いに出かけました。「だれがきても,戸口をあけるでないぞ」とじっさとばっさがいって出かけたあと,瓜がうたをうたいながらはたをおりはじめると,遠くの山のほうから瓜のおるはたの音がかえってくるのでした。「またアマンジャクがわるさをしてるだな」と瓜は思いながらはたをおりつづけました。そのうちに,そのアマンジャクの声が,だんだん近づいてきます。そしてとうとう戸口のすぐ外に立ったアマンジャクは,戸を開けろと大騒ぎを始めます。どうしようもなくなった瓜は,ほんの少しだけ入口の戸を開けました。するととたんにアマンジャクは家のなかに入ってきて,瓜をさらっていき,木の上にくくりつけてしまいました。そしてアマンジャクは瓜になりかわってはたをおりますが,おりかたをしらないのでじょうずにおることができません。そのうちにじっさとばっさが帰ってきました。

 はたおりのおとや,動物たちの鳴き声など,楽しい擬音がくり返されます。昔話にはくりかえしが多く,そのくり返しのことばのリズムやエピソードなどが昔話の楽しみのひとつでもあります。昔話では動物も人間と近い関係にあり,このおはなしでもトンビやカラスやニワトリが登場し,瓜の仕返しをしてくれます。瓜も,日本の代表的な昔話の主人公である桃太郎も,川上から流れてきます。彼らは神の申し子として人間界に授けられた存在で,水にゆかりのある登場人物に人気があるのは,水田農業を営んできた日本の生活と深い関係があるとされています。

 アマンジャクとはいったい何者なのでしょう? アマンジャクは,日本各地の昔話に登場します。声マネをする,いたずら好き,人の希望や神さまの思し召しに逆らう,主人公には向かうがいつも負けて滑稽,などというのがアマンジャクの特徴です。この物語に登場するアマンジャク は,昔の女の子の仕事である機織りがじょうずになった年頃の瓜をやっかんで,彼女の替わりにはたをおりにやって来たのでしょうか。とすると,このアマンジャクは女性でしょうか。みなさんはどう思われますか。

 劇作家の木下順二氏が書き下ろした昔話を,女優・山本安英さんが語っています。木下氏は山本さんの語りを「リアリズムと様式とが見事に統一されている語り」と評されていました。愛らしい瓜と,いたずらもののアマンジャクの対比。その秀抜な語りで日本の昔話をお楽しみください。