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GILGAMESH THE KING ギルガメシュ王ものがたり

2023年8月の紹介

GILGAMESH THE KING

ギルガメシュ王ものがたり

Long ago in the land of Mesopotamia, a king by the name of Gilgamesh
おおむかし,メソポタミアに,ギルガメシュという名の王がいました。
was sent by the Sun God to rule over the city of Uruk.
王はウルクの都をおさめるために,太陽神によって,この地へおくられたのでした。
Gilgamesh was part god and part man.
ギルガメシュは,神でもあり,人間でもありました。
He looked human,
人間のすがたをしていましたが,
but he did not know what it was to be human.
人間の心とはどのようなものかは,しりませんでした。
He had power and wealth but he was not happy.
ギルガメシュは,大きく,つよく,なんでももっていましたが,しあわせではありませんでした。
He had everything except friends.
友だちがいなかったからです。
He was always alone.
ギルガメシュは,いつも,ひとりぼっちで,
Because of this he grew bitter and cruel.
そのために,だんだん気むずかしく,ざんこくになっていきました。
One day, he decided to show how strong and powerful he was
ある日,ギルガメシュは,人びとに自分のつよさを見せつけて,
and make the people remember him forever.
いつまでも,自分をわすれさせないようにしよう,ときめました。

 ギルガメシュは人びとに昼も夜も働かせて,世界一高い城壁を作らせました。人びとがその暴君ぶりを訴え,助けを求められた太陽神は,エンキドゥという人間を作って森に送るのでした。エンキドゥを見た狩人から「世界一強い人」と報告を受けたギルガメシュは,美しい歌うたいのシャマトを森に送ってエンキドゥを誘惑させようとしました。ところがシャマトはやさしいエンキドゥを好きになり,ともにギルガメシュを倒すために都に向かいます。都の城壁の上で,ギルガメシュとエンキドゥは激しく戦いましたが,勝負はつきませんでした。

 城壁の上で戦っていたふたりですが,ギルガメシュは城壁から落ちてしまいました。そこをエンキドゥに助けられたことで,ギルガメシュは人間の心を理解することができました。ギルガメシュは人間らしい思いやりのある王となることができたのです。そして城壁づくりは止められ,人びとはもとの暮らしに戻ることができたのでした。国を治める立場の人間のあり方については,はるか昔も今も変わらない重要な問題です。誰もが安心し希望をもって生きていけるよう導いてほしいものです。

 5000年以上昔,メソポタミアで粘土板に記された世界最古の物語のひとつである「ギルガメシュ叙事詩」を描いた絵本です。5000年前に文字,メソポタミアでは楔形文字(くさびがたもじ)が作られ,人びとはさまざまなことを記録するようになり,文学作品が作られたのです。楔形文字で書かれたこの物語は,現在のイラクやパレスティナ,トルコなど多くの場所で発見され,1500年以上にもわたって書き続けられたベストセラー作品だったことがわかっています。

 チェコ出身の絵本作家であり映像作家であるルドミラ・ゼーマン氏が描きました。氏は幼い頃に父親に読んでもらった壮大な叙事詩が忘れられず,カナダに移住した後に,この絵本を著しました。この絵本を作る際には実際にシリアやイラクに足を運んでレリーフやテラコッタ(素焼きの陶器),円筒印章(古代メソポタミアの「はんこ」)に描かれた「ギルガメシュ叙事詩」を見て歩いたそうです。氏は絵本のイラストを描く際に,黒い線でフリーハンドで形を描いた後に水彩絵の具で彩色します。またそれにコラージュを加え,フレーム(外枠)は別に作るなど,場面に合わせていくつかの手法を組み合わせています。映像作家らしく「動きのある絵にしたかった」と語っています。絵本は3部作となっており,『ギルガメシュ王のたたかい』『ギルガメシュ王さいごの旅』と続きます。