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story今月のお話

THE FLUTE IN THE HIMALAYAS ヒマラヤのふえ

2023年6月の紹介

THE FLUTE IN THE HIMALAYAS

ヒマラヤのふえ

A story which was told a long time ago, in a place called Kumaon at the foot of the Himalayas.
昔 ヒマラヤのふもと クマオンというところで うたわれていた 物語

A long long time ago, in a valley in the far-away Himalayan mountains,
むかしむかし,とおい ヒマラヤの たにあいに,
lived a man named Ramol.
ラモルという なまえのひとが すんでいました。

He and his wife, Brinjamati, owned a small piece of land,
ラモルと おくさんのブリンジャマティとには,ほんのちょっぴり はたけがあり,
where they worked very, very hard.
そこで ふたりは,いっしょうけんめい はたらきに はたらきました。

But, no matter how hard they worked,
けれども,どんなに いっしょうけんめい はたらいても,
the land was so rocky and rough,
そこは いわだらけで ごつごつで,
that whatever they planted did not take root,
なにを うえても ねっこは のびず,
and whatever they sowed did not grow.
たねを まいても めが でず,
Their life was filled with hardships
ふたりの くらしは つらいこと ばかりでした。

 ある晩,ひとりのおじいさんがやってきて,ふたりに一晩の宿をお願いします。ふたりが精いっぱいのもてなしをすると,おじいさんはお礼にラモルに竹の笛をくれました。ラモルがその笛を吹いてみるとすばらしい響きがし,岩だらけだった土地から緑の草や美しい花ばなが咲きだしました。夜になってラモルの笛の音が空高くまで届くと,三つ星はフクロウの姿になって地上に聞きにやって来てうっとりと聞いていました。夜明けが近づくと,空に戻らないといけない三つ星は,笛の音が聞こえなければ早く帰れると考え,魔法でラモルをまるはなばちに変えてしまうのでした。あくるあさプリンジャマティが泣きながらラモルを探していると,あのおじいさんが現れてラモルの探し方を教えてくれたのでした。

 世界最高峰のヒマラヤのふもと,ネパールの国境近くのインドのウッタル県のクマオン丘陵地域に伝わる,バラッド(物語のある歌)を絵本にしたものです。最初のページでは,顔のある大きな太陽を中心に,畑仕事をするラモルとプリンジャマティの横顔が,切り絵人形のような姿で描かれています。音色はド,レ,ミ,ファ……にほぼ対応するインドの音階のサー,レー,ガ,マ……が、ヒンズー語の文字で描かれています。単純な線にも細かい表現があり,絵を楽しむことができます。

 この絵本はインドの有名な芸術家のひとりである,A.ラマチャンドランの作品です。彼の作品はモダンアートと,古典的なヒンドゥー美術(インド全域に広まるヒンドゥー教に伴う美術表現)を調和させた点に特徴があります。彼は自分にとっての芸術について「人々に静かで澄んだ心を獲得させることにある。人は音楽を聴いたり,本を読んだり,美術を鑑賞する際に,心の中で小さな美しい世界をつくりあげる。私はそうした心をもたらす絵を描きたい」と話します。

 プリンジャマティはあのおじいさんに聞いて,三日月の夜に蓮池で,三つ星が姿をかえた三匹の銀色の魚を捕まえ,ラモルを取りもどします。色彩豊かな絵本に,夫婦の愛情と勇気が描かれた作品。ラモルの笛の音は今も鳥たちの声となって,ヒマラヤの谷間に響いていると物語は結ばれています。花が咲きだし,星も聞きほれる音色は,自然がつくりだす鳥の声だったということでしょうか。どんな音だったのか想像しながら,絵本を楽しんでみてください。