This month's
story今月のお話

The Secret Garden 秘密の花園

2023年3月の紹介

The Secret Garden

秘密の花園

It is rumbling through a wilderness of heather and gorse, under a heavy Yorkshire sky.
ヒースやハリエニシダにおおわれた荒野を,1台の馬車がガラガラと走って来ました。頭上には,重たいヨークシャー州の空が広がっています。
In the carriage is an almost ten-year-old girl, and a stout woman with very red cheeks and sharp black eyes.
馬車には,もうすぐ10歳になる女の子と,まっ赤な頬にきりりとした黒い瞳のがっしりした婦人が乗っています。
The girl's name is Mary Lennox.
女の子の名前はメアリー・レノックス。
She has recently arrived in England after a long voyage from India.
メアリーは,インドから長い船旅を経てイングランドへやってきました。
Now she is on her way to her uncle Archibald Craven's house, Misselthwaite Manor.
いまは,伯父のアーチボルド・クレイヴンの済むミッスルスウェイトの館にむかっているところです。
Mary is a tyrannical, selfish girl with a little thin face and a little thin body and thin light hair.
メアリーは,いばりちらしてばかりのわがままな子どもでした。頬のこけた小さな顔に,やせこけたからだ,髪も細くて,あせたような色をしています。
Mary's parents were British, but they were posted to India, where Mary grew up.
両親はイギリス人でしたが,インドに配属になったため,メアリーは現地で育ちました。
Her father was a government official and very busy,
お父さんはイギリス政府の役人で,とても忙しい人でした。
and her mother was a great beauty who only cared about going to parties.
そして,お母さんはたいへん美しい人でしたが,パーティにいくことしか頭にありませんでした。
Mary was kept away from her parents,
メアリーは両親から遠ざけられ,
and was brought up by Indian nannies and servants who had to attend to her every wish.
なんでも言うことをきくインド人の乳母や召使たちに育てられました。

 荒れ地のムーアにたたずむ館にやってきたメアリーは,翌朝,召使のメドロック夫人に仕えるマーサにうながされ,館の外の庭へと出てみます。そこには大きな庭や花壇,果樹園などたくさんの庭がありましたが,ひとつだけ鍵がかけられて10年間誰も入っていないという庭が。しばらくたったある日,コマドリに導かれるように庭を進んでいくと,土の中にひとつの鍵をみつけます。「きっとあの庭の鍵よ!」。そう思ったメアリーは,鍵を使って中に入ってみると,その庭はツルバラにおおわれたとても神秘的な場所でした。メアリーはその庭を「秘密の花園」と名づけ,マーサの弟のディコンと毎日せっせと通いました。そしてある嵐の夜のこと,風の音にまじって誰かの泣き声が聞こえてきます。メアリーが泣き声のする部屋に向かうと,そこにはこの屋敷の主クレイヴン氏の病弱な息子,コリンがベッドに横になっていたのでした。

 孤独でわがままな少女メアリーと,病弱で部屋にこもっていた少年コリン。ふたりを中心に,子どもたちが秘密の花園を再生し,また同時にコリンも健康を取り戻します。物語のなかではイギリスの長い冬から春の訪れ,そして花園が再生されて植物が成長する自然の描写がていねいに描かれています。自然にふれて,その美しさを味わい,植物が育つことを感じることによって,コリンが心身ともに健康になっていくことがわかります。またメアリーもそのコリンを思い,手を差し伸べ,精神的に成長していきます。

 イギリスの人びとは庭を大切にするそうです。造りこむというよりは,自然なかたちを活かすのがイングリッシュ・ガーデンの特徴です。イギリスでは園芸店が多くあり,園芸に関するテレビ番組はゴールデンタイムに放映されています。とくに春から夏にかけては人々はガーデニングにいそしむことが多いようで,長かった冬から脱し,太陽を思いきり浴びたいという気持ちなのでしょう。そのような国が生んだこの物語。登場人物たちに庭はとても重要な役割を果たしています。

 この物語の作者のフランシス・ホージン・バーネットは,『小公子』や『小公女』でも有名なイギリス生まれの作家ですが,この作品は移り住んだアメリカで1911年に発表しています。バーネットが住んでいた家の近くに,高い塀に囲まれた雑草のだらけの庭があり,それがこの『秘密の花園』のヒントになったそうです。バーネットも庭が好きで,自身で庭の手入れをしていたということです。

 主人公メアリーの名前は,「Mary, Mary, quite contrary」というマザーグースに由来しています。ちなみにこのマザーグースには「Mistress Mary, quite contrary」という別バージョンがあり,『秘密の花園』が雑誌に連載されていたときのタイトルは「Mistress Mary」でした。「Mary, Mary, quite contrary, How does your garden grow? (つむじ曲がりのメアリーさん あなたのお庭はどんなふう?)」。孤独でわがままだったつむじ曲がりのメアリーは,10年間手入れがされていなかった秘密の花園を再生していくことで,明るく素敵な少女へと変わっていったのです。