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story今月のお話

O-o-kuni-nushi, the Gentle King オオクニヌシ

2023年1月の紹介

O-o-kuni-nushi, the Gentle King

オオクニヌシ

The east coast of Tottori prefecture is famous for its sand dunes.
鳥取県の東のほうの海岸は,砂丘で有名だ。
Long ago, this region was known as the country of Inaba.
昔はこのあたりをイナバの国といった。
Nobody knows when they started calling it this,
いつからそうよぶことになったか,だれも知らない。
but it was probably soon after being named.
だが,その名がつけられてまもないころだったろう。
Along the scorched sand of a beach a crowd of gods were walking.
この浜のやけた砂の上を,おおぜいの神があるいていた。
“Hey, walk faster!”
「おうい,もっとはやくあるけ」
The god in the lead called out, and as he did so, waves shimmered.
先頭の神がさけぶと,波がきらりと光る。
“Why all the hurry?
「何をそんなにいそぐのだ。
It's for me the princess awaits.”
ヒメはおれを待っているのだぞ」
“Nonsense!
「ばかを言え。
By tomorrow morning it will be my necklace hanging on the princess's breast.”
あすの朝になれば,ヒメの胸におれの首飾りがぶらさがっているさ」
Like gulls their young voices soared and again the sea shimmered.
若い声がカモメのようにとびかい,海がまた光った。
Rough and boisterous, oh, what deities they were!
らんぼうで,にぎやかな神々だった。
They were all cousins, known as the Throng of Gods.
おたがい親類同士だったので,まとめて八十神とよばれていたが,
The stories of s beautiful princess named Yakami-hime had reached them,
ヤカミヒメという美しい姫神がいると聞いて,
and they were on their way from Izumo, now called Shimane prefecture, to visit her.
イズモの国,いまの島根県からたずねていくところだった。

 旅の途中,サメをだましたために皮をはがれて苦しんでいるウサギに出会った八十神は,悪ふざけでうその治療法を教え,それに苦しむウサギの姿を見て笑いながら去っていきました。遅れてやってきた八十神の弟(後のオオクニヌシ)が苦しむウサギを助けてやると,ウサギはヤカミヒメの心をつかむのはオオクニヌシだと予言します。予言どおりヤカミヒメの心をつかんだオオクニヌシに兄神たちは激怒し,火で焼いた石を抱かせてオオクニヌシを殺してしまいます。母神の祈りによってオオクニヌシは生き返りますが,兄神たちは今度は巨木の裂け目に挟んでオオクニヌシを殺そうとします。今回も母神によってオオクニヌシは蘇生しますが,このままでは兄神たちに本当に殺されてしまうため,オオクニヌシにスサノオの住む根の国へ行くように勧めます。

 根の国でスサノオが与えた試練に打ち勝ったオオクニヌシは,根の国から戻って国造りを行い,農業,漁業,商業,医療などの知恵を人びとに与えました。また人と人が結びつくよう縁を結んだのもオオクニヌシです。こうしてオオクニヌシが造った国は「豊葦原之瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)」と呼ばれますが,それは「葦がしげり,稲穂がみずみずしく育つ,豊かな国」という意味です。

 オオクニヌシは,何度も殺されそうになりながらもよみがえり,きびしい試練を乗りこえる強さだけでなく,傷ついたウサギを助けるやさしさももち合わせています。そして彼が困難にであうと,かならずだれかが助けてくれるのでした。この物語の英語タイトルには,「the Gentle King」とあります。この「Gentle」が意味するオオクニヌシはどんな神様だったのか。そんなことを考えながら,この物語を味わってみるのもよいですね。