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story今月のお話

The Happy Prince 幸福な王子

2022年9月の紹介

The Happy Prince

幸福な王子

High above the city, on a tall column, stood the statue of the Happy Prince.
街にそびえて,高い円柱の上に,幸福な王子の銅像が立っていました。
He was covered all over with thin leaves of fine gold.
王子は純金のうすい箔でからだじゅうをおおわれており,
His eyes were two bright sapphires.
その目はふたつの澄みきったサファイアでした。
And a large red ruby glowed on his sword handle.
それに大きな真赤なルビーが王子の剣の柄に光り輝いていました。
Everyone admired him.
だれもがこの王子をほめたたえました。
“He's as beautiful as a peacock.”
「くじゃくのように美しい」
“He looks like an angel.”
「天使のようだ」
“I'm glad someone's happy.”
「幸せが人間がいてくれて,おれも気が安まる」

 ある晩,アシに恋をして出発が遅れ,大急ぎでエジプトに向かっていた1羽のツバメがこの街に飛んできて,銅像の下にとまりました。幸福な王子の目が涙でいっぱいなのに気づいたツバメは,その理由を尋ねます。すると王子は「自分は生きているときは何の憂いもなく暮らしてきた。今,私は死んで銅像となり,高いところから見ると,街の中ののみにくいことも不幸せなこともみんなわかってしまう」と答えました。そして王子は,自分の体についている宝石類を,人々に届けてほしいとツバメにお願いします。冬になるまで王子を手伝ったツバメはエジプトに渡ることをあきらめ,これまでに見てきた風景を語り,王子の目となって街の様子を伝え,王子を助けるのでした。やがて力つきたツバメは,王子の足元で最後の大冒険に出かけるのでした。

 生きているときには知ることもなかった人々のようすを目の当たりにし,自分の体を削って救済しようとする王子。その自己犠牲ともいえる意志と行為によって,街の貧しい人々は笑顔を取り戻します。しかし,美しかった王子は盲目でみすぼらしい姿になり,ツバメが弱っているのに気づくことができません。「急いでおゆき」と王子が伝えたとき,ツバメも力尽きます。

 アイルランド出身の作家,劇作家,評論家である,オスカー・ワイルド (1854-1900)の有名な童話です。ワイルドは世紀末に当時のイギリスの社交界で名声を得ていましたが,社会を乱した罪で服役するまでになります。その後はフランスに逃れ,作家として名声をとりもどすことなくパリで亡くなりました。『幸福な王子』はワイルドが結婚して子どもをもった後に書かれ,1888年に出版された作品です。彼は「単に自分の息子や子どもたちのために書いたのではない。子どものような心をもった大人にも理解しやすいように童話というかたちで,物語を書いた」と言っています。

 人の幸福とは何か。「幸福な王子」というタイトルは何を物語っているのか。いろいろなことを考えさせられるお話です。みなさんはこの「幸福な王子」から,どんなことを感じますか。