This month's
story今月のお話

The Nightingale ナイチンゲール

2022年6月の紹介

The Nightingale

ナイチンゲール

Long long ago, when empires were the fashion, China had an emperor too.
むかしむかし,皇帝のいらっしゃる国が大はやりだったころ,CHINA(シナ)もやっぱり皇帝のいらっしゃる国でした。

Now in china, as you must know, the emperor was Chinese and so was all the court and all his millions of subjects and they all spoke exclusively Chinese.
さあ,このCHINAでは,みなさんも知っているはずですが,皇帝もCHINA人ですし,宮廷につかえる人たちも,おびただしい数の民草もみんなCHINA人で,だれもかれも,しゃべることばはCHINA語ばかりなのです。

The emperor's palace was a marvelous delicate structure, built all of fragile porcelain.
皇帝の宮殿は,それはすばらしい,こまやかに仕上げられた建物で,どこもかしこもこわれはしまいかとはらはらするようなやきものでできていました。

The garden was thick with rare and dainty flowers, the very best of which had tiny silver bells attached that tinkled in the slightest breeze so that no one could pass by without noticing them.
庭には世にもめずらしい,みやびやかな花ばなが咲きほこり,とくにみごとなものにはかわいらしい銀の鈴がゆわえつけられていて,ほんのそよ風にもちりりんと鳴るので,そこを通りかかる者はすぐ気がつくのでした。

This vast garden was so large that no one knew where it ended.
この広い庭の大きいことといったら,どこまでつづくのかだれもわからないくらいなのです。

At one end was a shady green wood which stretched out to the sea itself, where great ships would sail beneath the branches of the trees, and this wood was the home of the little nightingale.
この庭をずうっと行くと,なんと海につづいている緑濃い森があって,そこからはり出した木々の枝の下を大きな船がゆきかうのでした。この森に一羽の小さなナイチンゲールが住んでいました。

The bird's song was so beautiful that even the busy fisherman who had to labor so hard for his living would stop to listen whenever he could.
この鳥のうたう声はほんとうにすてきでしたから,あくせく働かねば暮らしのたたない漁師でさえ,つい仕事の手を休めて聞きほれるのでした。

 外国の本には,中国の中で一番すばらしいものはナイチンゲールだと書かれていますが,皇帝はナイチンゲールを知りませんでした。そのことを知った皇帝は,ナイチンゲールを連れてくるように侍従長に命令しました。けれども宮廷で働くだれもがナイチンゲールのことを知りません。宮廷でたったひとり台所で下働きをする娘がナイチンゲールを知っていて,ナイチンゲールは森から宮廷にやってきました。その夜,ナイチンゲールの歌声をきいた皇帝は涙を流し,それに喜んだナイチンゲールは宮廷に留まることになりました。宮廷は,ナイチンゲールの話題で持ちきりです。ところがある日,ナイチンゲールそっくりに歌う機械で作られたナイチンゲールが皇帝に送られてきました。そこで本物のナイチンゲールといっしょに歌うことになるのですが……。

 この物語の舞台は中国となっていますが,実際の中国というよりは,19世紀中頃の当時のヨーロッパ人が想像する東の国といえるでしょう。当時のヨーロッパの人々にとって,東の国は未知の国でした

 この物語にはふたつのナイチンゲールが登場します。作り物のナイチンゲールは,宝石がついていてとてもきれいでねじを巻けば,同じ歌を何度でも何度でも歌うことができます。けれどもそれは,しばらくすると壊れてしまいました。一方,本物のナイチンゲールは,作り物のナイチンゲールがやって来ると宮殿から去ってしまいます。けれども皇帝の具合が悪くなると側にやって来て,歌声をきかせました。好きな時に泣かせることができる作り物のナイチンゲールは壊れてしまうけれども,心をもった本物のナイチンゲールは皇帝を助けることができたのです。「本物」と「イミテーション」の違いを語りかけたかったのでしょうか。

 このお話は「童話の王様」と呼ばれた,デンマークのハンス・クリスチャン・アンデルセンの作品です。アンデルセンは,昔話を素材に状況描写や心理描写を加えて話をふくらませて物語を描きましたが,彼は「私の書いたものの多くは私自身を反映しています。すべての登場人物は私の人生から生まれてきたのです」とも言っています。この作品は,アンデルセンの最後の恋の相手となったオペラ歌手で,「スウェーデンのナイチンゲール」と呼ばれたジェニー・リンドへの愛がつづられているといわれています。彼女は作りものではない,本物の歌い手だということでしょうか。

 ナイチンゲールという鳥は,日本では「サヨナキドリ (小夜啼鳥)」と呼ばれています。ロビン,クロウタドリと並んで,ヨーロッパでは詩や歌に多く登場する鳥のひとつです。姿が美しく,よくさえずるからです。みなさんもナイチンゲールをみつけたら,どんな歌を歌うのか耳を傾けてみてください。