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story今月のお話

There&s some Sky in this Pie 空のかけらをいれてやいたパイ

2022年2月の紹介

There&s some Sky in this Pie

空のかけらをいれてやいたパイ

There was an old man and old woman,
あるところに,おじいさんとおばあさんがいました。
and they lived in a very cold country.
ふたりはとても寒い国にすんでいました。
One winter day the old man said to the old woman,
冬のある日,おじいさんはおばあさんにいいました。
“My dear, it is so cold,
「なんとまあ,これはひどい寒さだな。
I should like it very much if you would make a good, hot apple pie.”
おまえひとつあつあつのおいしいアップル・パイをやいてくれないかね。」
And the old woman said,
そこでおばあさんはいいました。
“Yes, my dear, I will make an apple pie.”
「いいですともさ,アップル・パイをこしらえてあげましょう。」

 おばさんがアップル・パイをやいていると,空のかたすみがちぎれてパイ皮の中に入ってしまいました。そうとは知らないおばあさんが,焼いたアップル・パイを取り出そうとかまどのふたを開けると,パイはふわふわと浮かんで家の外に出ていってしまいました。おじいさんとおばあさんはとめようとしてパイに飛び乗りますが,とめられず,ふたりはパイに乗ったまま雪の降る空へとのぼっていきました。途中,ネコ,飛行士,アヒル,ヤギ,ゾウに出会いますが,だれもパイをとめることができず,いっしょにパイに乗っていくことに。やがてさめたパイは海の上におち,浮かぶのでした。

 物語が現実の世界から,空想の世界へとうつっていくファンタジー作品で,短篇の名手といわれるイギリスの作家,ジョーン・エイキン(1924-2004)によって書かれました。エイキンは,リズムのよい文体のストーリーに,さまざまな乗り物を登場させる物語を多く書き残しています。浮かんだパイに乗ることは到底あり得ないことですが,私たちはそんなパイがあったら乗ってみたいと,ワクワクしながらこの物語を楽しむことができるでしょう。ヤン・ピアンコフスキーによる切り絵風の挿絵も,魅力的です。ピアンコフスキーはエイキンとの作品も多く,1971年にはエイキンの『The Kingdom under the Sea(海の王国)』にイラストを描き,ケイト・グリナーウエイ賞を受賞しています。

 物語に登場するイギリスのパイは,日本でよくみられる何層にもなっているサクサクとした食感の「パフ・ペイストリー」という生地を使ったものではなく,厚くてサクッとした食感の「ショートクラスト・ペイストリー」と呼ばれる生地を使い,タルトに近いものです。そしてパイの上の部分は,その生地で全体を覆うように作られます。みんなが乗っていったようすを思い描いてみてください。