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story今月のお話

DURSHYN, THE NAKED PRINCE はだかのダルシン

2021年10月の紹介

DURSHYN, THE NAKED PRINCE

はだかのダルシン

Dursoi's Song of Prayer   Life-bearing Mother Earth, boundless thy blessing be,
All life, heavens watch over, fatherly love forever,
Songs of praise, prayers of thanks, we offer to thee.
ドゥルソイのいのりのうた   母なる大地 めぐみあふれん
命みまもる空 父なる愛はとわに
いまささぐ いのりと 感謝のうた
Dursoi A The clouds open their portals.
ドゥルソイA   雲のとびらがひらく。
Dursoi B The wind doth speak.
ドゥルソイB 風の声がきこえる。
Dursoi C There is rustling in the great Mother Tree.
ドゥルソイC 母なる大樹がゆれる。

In the land of the Keltoi, one seeks permission even to cut a tree in the forest.
ケルトイの国では,森の木を切るにも大地のゆるしを請います。
The three holy men, Dursoi, used a golden sickle to cut a sprig of mistletoe from a big old oak tree, called “Dur” in the Keltoi tongue.
3人の聖人ドゥルソイは金の鎌をふるい,この国のことばでドゥ―ルとよぶナラの古い大木からヤドリギを刈りとりました。
One of the Dursoi waved the sprig of mistletoe over the head of the sacrificial ram and another held an obsidian knife to its throat.
ひとりのドゥルソイがヤドリギをいけにえのヒツジの頭のうえでふり,もうひとりが黒曜石のナイフをそののどにあてました。
With blood on the mistletoe sprig,the ground is purified and everyone's foreheads and cheeks are smeared with marks for protection.
ヤドリギについた血で大地をきよめ,みなの額とほほに,血で厄よけの文様を描いていきます。
The song of prayer continued until all the offerings to the gods were consumed by fire.
いのりのうたは,神がみへのささげものが燃えつきるまで続きました。



 王子であるダルシンは,父コンラ王が北の海に旅立っているあいだに,国を支配しようとしていたグンダー総督によって城を追われてしまいます。さらには祭祀であるドゥルソイにによって自然の子となるよう,人間の暮らしから切りはなされ,森の中で裸になって暮らすことになります。ダルシンは黒い馬のクロイナリ,カラスのオブ,オオカミのグルーとともに,やがて竜の島に住み,グンダー総督に命を狙われながらもたくましく成長していきます。神々の子として自然によって教えられ,きたえられ,すぐれた人となったダルシンは,ドゥルソイにその成長を認められ,「ドゥ―ルの子ども」とみなされることに。そしてダルシンは名誉をかけてグンダーの息子アニグに決闘を挑むのでした。

 ケルト社会の祭祀であるドゥルソイは,宗教的のみならず,政治的にも指導者という立場にあり,ケルト社会でのさまざまな局面で重要な役割を果たします。それゆえ王子であるダルシンを成長させるために,人間社会から切りはなして森に追放したのです。ダルシンは18歳になったときに「ドゥ―ルの子」として認められ,元の生活に戻ることが許されただけでなく,人びとを救うことを任されるのでした。

 ケルトイ(古代ギリシア語でケルトを意味する)を舞台にした,C・Wニコル氏の物語です。少年である王子ダルシンがひとりの人間として成長するさまを,友情,裏切り,悲しみ,希望,多くの人々とのエピソードを通して繰り広げるネイチャーファンタジーです。森のなかの生活は,かつてのニコル氏の体験から描かれています。

 この作品はダルシンというひとりの少年が,自然を敬う心と知恵を身につけて成長する物語です。そしてさらには,現代の私たちに,自然と人間の関係,「生きとし生けるもの」の一員としての人間について考え,未来に継承するものの大切さを問いかけているといえるでしょう。