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The Diverting History of JOHN GILPIN ジョンギルピンのこっけいなできごと

2021年9月の紹介

The Diverting History of JOHN GILPIN

ジョンギルピンのこっけいなできごと

JOHN GILPIN was a citizen
Of credit and renown,
A train-band captain eke was he,
Of famous London town.
ジョン・ギルピンはだれからも
信頼されている人物だった
そして 花の都ロンドンの
民兵団の隊長でもあった

John Gilpin's spouse said to her dear,
"Though wedded we have been
These twice ten tedious years, yet we
No holiday have seen.
その彼に,細君がいい出した
「わたしたち 結婚してもう
20年 でも毎日がおなじくりかえし
気ばらしのおでかけもなかったわ

"To-morrow is our wedding-day,
And we will then repair"
Unto the 'Bell' at Edmonton,
All in a chaise and pair.
ちょうどあしたは 結婚記念日
だから でかけましょうよ
エドモントンの<ベル亭>へ
二頭だての四輪馬車で行きたいわ

"My sister, and my sister's child,
Myself, and children three,
Will fill the chaise; so you must ride
On horseback after we."
でも 妹と 彼女の子どもがひとり
それにわたしと,うちの子3人で
馬車はもういっぱい あなたは
後から 馬で来なければだめ」



 結婚記念日のお祝いのために家族で出かけることにした,ロンドンの名士ジョン・ギルピン。けれども彼は仕事で一足遅れて出発することに。お客が帰ると,ギルピンは出発しますが,馬はあっという間に全力疾走。目的のレストランの前を突っ走り,勢いでギルピンの帽子やらかつらやらはふきとぶ始末。やっとのことで馬は持ち主の家の前で停まりました。レストランに引き返そうとすると,今度もまた全速力で走りだし,今度はギルピンの家の前まで戻ってしまいました。行きかえりの沿道では,この様子を見た人びとがホースレースと勘違いしてはやしたて,大騒ぎになるのでした。

 近代絵本の父といわれる,イギリスのランドルフ・コールデコットが描いた絵本です。毎年アメリカで出版された絵本のうち,もっとも優秀な絵本に認定された絵本に送られるコールデコット賞は彼の名前にちなんでいます。そしてその賞のメダルには,ギルピンが馬に乗って疾走する絵が描かれていますので,ぜひ見てみてください。この作品は,1785年に発刊されたウィリアムズ・クーパーの,マザーグースの歌をもとに書かれたバラッド(物語詩)を絵本にしたものです。

 コールデコットは登場人物をはじめ,風景のなかの動物たちまでも個性豊かに描き,ユーモアがあり,風刺的でスピード感あふれるこの絵本をつくりました。さらにカラーとモノクロで効果的に描き,余白をじょうずに使って風景の広がりや奥行を描いています。また,お祝いが行われるはずのレストランでは,ウエイターが手の上の懐中時計を見ています。そのイラストは,家族がギルピンの到着に待ちくたびれている様子を説明しています。このようにことばで表現しないことをイラストで表すことを,「Narrative picture(物語る絵)」といいます。これらの手法はコールデコット以降,ビアトリクス・ポターやモーリス・センダックなどさまざまな絵本画家によって受け継がれていきました。どうぞ隅々までご覧になりながら,リズムのある英語とともにお楽しみください。