This month's
story今月のお話

TOM SAWYER, Prince of Mischief わんぱく大将 トム・ソーヤ

2021年8月の紹介

TOM SAWYER, Prince of Mischief

わんぱく大将 トム・ソーヤ

Oh, Mississippi!
ミシシッピィ。
From Minnesota all the way to the Gulf of Mexico you tickle the American spine.
ミネソタ州に始まり,メキシコ湾へ。アメリカの胴体をくすぐりながら流れる川。
Corn, cotton and tobacco you carry along, as well as the songs of those who work beside you.
とうもろこし,綿,タバコ,そして働くひとびとの歌を運んで,ゆるやかに流れる川。
And you never stop singing yourself!
自分の歌を忘れたことのない川。

Ben.   Hey, there's the “Big Missouri!”
あ,「大ミズーリ号」だ。
Tom. Let' s go down to the landing and watch.
船着き場へ行ってみよう。
Joe. Race you all down there!
よし,かけっこだ。
Ben. Last one there gets thrown in.
びりになったやつは,川にほうりこむぞ。
Tom. Hey, there's a clown on the hurricane deck.
見ろ,上甲板にピエロがいる。
A circus&aops;s coming.
サーカスが来たんだ。
Ben. Looks like.
ほんとうだ。
That fellow smoking the cigar is the ringmaster, I reckon.
葉巻きをすっているのが団長だぜ。
Joe. They must've come up from St. Louis.
セント・ルイスからのぼってきたんだね。

 アメリカ・ミズーリ州,ミシシッピィ川のほとりの小さな町に住む少年トム。養母ポリーおばさんに塀を白く塗る仕事を言いつけられると,仲間をたくみに誘って仕事をさせ,さらには仲間からのみつぎものを手に入れることに成功します。ベッキーに婚約を申し込むも,他の女の子と婚約をしていたことがばれてご破算に。仲間3人と海賊になったつもりで家出をしますが家が恋しくなり,ちょうど彼らの葬式をしているところに舞い戻って,町の英雄になります。洞窟では道に迷いながら,勇気をもってベッキーをリードして,最後には助かるのでした。

 物語に登場する人びと,トムが淡い恋心を抱くベッキー,わんぱく仲間のハックやベン,ジョー,彼らが反発する大人たちは,子どももおとなも,生き生きとした生活を送っています。そういった人びととの生活のなかで,少年トムの成長が描かれています。

 アメリカの作家マーク・トウェインが,1876年に刊行した作品です。トウェインは少年時代にミズーリ州ハンニバルに住んでいたことがあり,その頃のことをこの物語に描いたといっています。それまでの文学での子ども像は,大人がもつ「理想的で無垢」なものでした。けれどもこの作品の主人公トムは,それとはまったく異なるリアルな少年像として描かれています。トゥエインは,「子どもたちに楽しんでもらいたいが,大人にも自分の子どものころを思い出してほしい」といっています。

 この物語の舞台となる19世紀はじめ,アメリカでは東部から西部へと人びとは土地を求めて移動していきました。東部での機械工業の発達によって,南部では綿花栽培がさらに盛んになり,アメリカの中心を流れるミシシッピィ川は,当時のアメリカの大動脈として,人や物が行き来し,経済活動にも大きな役割を果たしました。そして1849年にはカリフォルニアで金鉱が発見され,東から西への人々の流出は加速していきます。アメリカが大きく変わろうとしていた頃の,ミシシッピ川沿岸での生き生きとした人々が描かれたこの物語。しかしながらそこには,単なるトウェインのノスタルジーではなく,ユーモアと人間に対する温かいまなざしがありました。そのためでしょうか,アメリカだけでなく世界中で長く愛される作品となっています。