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story今月のお話

The Tailor of Gloucester

2020年12月の紹介

The Tailor of Gloucester

グロースターの仕たて屋

In the time of swords and periwigs and full-skirted coats with flowered lappets―when gentleman wore ruffles, and gold-laced waistcoats of paduasoy and taffeta―
ひとびとが まだ,剣や かつらや,えりに花かざりある ながい上着を 身につけたころ―紳士がたが そでぐちを ひだかざりでかざり,金糸のししゅうの パデュソイやタフタのチョッキをきたころのこと―

there lived a tailor in Gloucester.
グロースターの町に,ひとりの仕たて屋が すんでいた。

He sat in the window of a little shop in Westgate Street, cross-legged on a table, from morning till dark.
仕たて屋は,西門通りに 小さな店をもち,朝から晩まで しごとだいの上にあぐらをかいて,店のまどべに すわっていた。

All day long while the light lasted he sewed and snippeted, piecing out his stain and pompadour, and lute-string;
1日じゅう 日のあるかぎり,仕たて屋は,はりをはこび,はさみをつかい,サテンやポンパドールや リュートストリングなどという きれをぬいあわせた。

stuffs had strange names, and were very expensive in the days of the Tailor of Gloucester.
そのころの きれやレースには,きみょうな名まえが ついていて,そいういうものは 高価だった。

But although he sewed fine silk for his neighbours, he himself was very, very poor---a little old man in spectacles, with a pinched face, old crooked fingers, and a suit of thread-bare clothes.
ところが,仕たて屋は こうして ひとびとのため,りっぱなふくを ぬいはしたけれど,じぶんは めがねをかけた,小さな ひんそうなおとこで,しなびたゆびは まがり,ふくは すりきれ,たいへん まずしかった。



 クリスマスが間近にせまったとき、仕たて屋は市長の結婚式のための衣装を作るのに忙しくしていました。けれども仕立て屋は具合が悪くなり、クリスマスの結婚式に間にあわせることができないのではと心配しています。家に帰ってねこのシンプキンにおつかいに行ってもらっているあいだに,仕立て屋はシンプキンがつかまえていたねずみを逃がしてしまいます。シンプキンは帰ってきてそのことに気づいて怒りますが,仕たて屋はその夜,熱を出してしまいます。仕事のことが気になってうなされながら寝てしまいます。すると,彼にかわってねずみたちがみごとな衣装を作りあげてくれるのでした。

 びんぼうな仕たて屋をとりまく,ねこやねずみとの物語。小さな動物を生き生きと描いたビアトリクス・ポターの作品です。この『グロースターの仕たて屋』は,実際にあったことを,ポターはいとこから聞いて,それをヒントに書いたそうです(実際に仕たて屋を助けたのは,ねこではなくお弟子さんたちだったそうですが)。いまのように機械で服が作れるのとは異なり,一針一針手で縫ったり,刺繍したりと細かい作業が必要でした。結婚式で着る特別な服でしたら,なおさらです。絵本のイラストにある衣装もとても細かく描かれています。

 夜,店の中でねずみたちが仕たて屋を助けて衣装を作っているのを見て,ねこのシンプキンは自分が悪かったと悔い改めますが,仕たて屋が元気になって店に行くときには店の中に飛びこんでねずみを捕まえようとします。登場する動物を擬人化しながら,小動物の習性も描いている点も,この作品のおもしろさのひとつです。

 この絵本にでてくる仕たて屋の店は,イギリスのグロースターという町の大聖堂の近くに実際に存在します。現在では「House of The Tailor of Gloucester - Beatrix Potter Shop and Museum」となっていて,多くの観光客が訪れるそうです。クリスマス・イブにはこの物語を読む家族もあるそうです。みなさんも今年のクリスマス・イブに,耳を傾けてみてはいかがですか。