This month's
story今月のお話

2020年6月の紹介

The Dreadful Drops

ふるやのもり

Long ago, an old man and an old woman lived on the fringe of a certain small village.
むかし,あるむらのはずれに,じいさんとばあさんがすんでいました。
The old man and the old woman were raising a fine young colt.
ふたりはりっぱなこうまをそだてていました。
Now one rainy night, a horse thief sneaked into the barn to steal this colt.
さて,あめのふるあるばんのこと,うまどろぼうが,そのこうまをぬすもうと,うまやにしのびこみました。
He climbed up into the rafters of the barn and hid there stealthily.
そして,うまやのはりにのぼって,こっそりかくれていました。
The wolf from the mountains came that same night wanting to eat the tender young colt and silently hid in a pile of straw on the dirt floor of the barn.
ところが,また,やまのおおかみも,このうまのこをとってたべようとおもって,うまやのどまのわらやまのなかに,ひっそりとかくれていました。



 じいさんとばあさんが「どろうぼうがこわい」「おおかみがこわい」とはなして,どろぼうとおおかみはよろこびます。けれどもじいさんとばあさんが「ふるやのもりがいちばんこわい」というので,どろぼうとおおかみはふるやのもりをこわがります。そうこうするうちに「ふりやのもりがでた」といわれて,どろぼうとおおかみはびっくり! おおかみが逃げだそうとして,どろぼうはその上に乗って森へと向かいました。

 これは,日本の有名な昔話です。ところで,じいさんとばあさんがこわがる「ふるやのもり」って,何のことだかわかりますか?

 昔の家は,屋根がすすきや藁(わら)などでできているものがたくさんありました。じいさんとばあさんが住んでいた家も,そんな家だったのかもしれません。そのような屋には,囲炉裏の煙が家の内側から屋根の草を燻す(いぶす)ことになりヤニが付きました。そのヤニによって水雨を防ぐことができますが,何年かすると劣化してしまい,ふきかえないと雨漏りがするようになってしまいます。つまり,じいさんとばあさんがこわがっていたのは古い家の雨漏り,古屋の漏り(ふるやのもり)を心配していたのです。

 かつて日本には,このおはなしにあるような人間と家畜がいっしょに住む家がありました。岩手県に多く見られる曲がり家(まがりや/母屋と厩が一体化したL字型の家屋)などはその典型です。馬は軍馬としても必要でしたが,農耕馬として重要な役割を果たしていて,馬と人間は密接な関係にありました。そのため人間は馬を大切に思い,同じ建物のなかに暮らしていて,とくに雪深い地域では家畜を家屋の中で育てていました。この昔話にでてくるじいさんとばあさんも,かわいがっていたこうまと同じ家屋で暮らしていたのでしょう。

 この絵本の作者,田島征三氏は自然や生活そのものを作品にしたいと考える作家です。氏のデビュー作となったこの絵本は,当初,保育者などには評判が悪かったそうですが,そのような声に反して子どもたちの心をとらえました。決して鮮やかではないけれども,数色のみで力強く描かれたこの作品は,ベニヤ板に薄い紙を貼って描かれたそうです。