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story今月のお話

2019年11月の紹介

Snow White

白雪姫

One day when the winter snows lay deep, a young queen sat sewing by an open window with a black ebony window frame.
雪がどっさり積もった冬のこと,若いお妃が,黒檀の枠をした窓がひらいているそばで,ぬいものをしていました。
While she sewed she looked out at the snow from time to time.
針を運びながら,お妃はときどき外の雪に目をやっていましたが,
As she did so, she happened to pick her finger with the needle.
そのうちについ指を針で刺してしまいました。
Blood flowed, three red drops on the white snow.
血があふれて,白い雪のうえに三つの赤い点ができました。
The three red drops looked so beautiful against the white snow that her only thought was,
白い雪に落ちたその三つの赤いしずくがあんまりきれいに見えたので,お妃はすっかり心をうばわれて,こう思わずにはいられませんでした。
“Oh how I would like a little girl, as white as snow, as red as blood, and as black as the ebony of this window frame.”
「雪のように白く,血のように赤く,そしてこの窓枠の黒檀のように黒い女の子がほしい」
Now this queen had magic powers, and out of her wish was born a child with skin as white as snow, lips and cheeks as red as blood, and hair as black as ebony.
ところがこのお妃はあやしい力の持ち主でしたから,この願いごとのせいで,雪のように白い肌と,血のように赤いくちびると頬,そして黒檀のように黒い髪のこどもが生まれてきたのです。
And the queen raised her and loved her as her own daughter, for she had none of her own.
こどものなかったお妃は,自分の娘同様にかわいがって育てました。
She called the girl Snow White.
お妃はその子を白雪姫と名づけました。


 お妃が鏡に向かって「この世でいちばん美しいのはだれじゃ」とたずねると,鏡はいつも「お妃さまが第一番」と答えていました。しかし白雪姫が七つになると,鏡は「お妃さまはたとえようもなくお美しい。ですが,ことし,白雪姫はその千倍も美しくなられました」と答えたのです。このことばに心穏やかでないお妃は,白雪姫を殺そうとします。しかし白雪姫は難を逃れ,森に逃げ込んで七人のこびとに出会って助けられます。白雪姫がぶじでいると知ったお妃は,彼女を森に訪ね殺そうとします。そしてお妃の毒りんごをのどに詰まらせてしまった白雪姫でしたが,やってきた若い王子との出会いによって生き返ることができたのでした。

 有名なグリム童話のひとつです。いつどこの物語なのかはっきりしませんが,はじまりから,白・赤・黒と色鮮やかに場面がイメージされます。あやしい力をもつお妃の鏡は,「白雪姫は千倍美しい」と極端な表現をするのも昔話ならでは。ヨーロッパの昔話では森の中でさまざまなことが起こりますが,白雪姫も森に逃げ込み七人のこびとによって保護されます。せっかく小人に助けてもらったのに,変装したお妃の来訪を受けてしまう白雪姫。胴着で縛られたり,毒りんごで息が止まったりするのに助かるのも不思議です。

 この物語が愛されるのは,明確な答えのないストーリーを,読者のイメージで読みすすめられるからでしょうか。または物語の底に,古今東西に共通する人間の本質を感じるからでしょうか。ぜひ江守 徹氏の重厚な語りでお楽しみください。