This month's
story今月のお話

2019年10月の紹介

FERDINAND

はなのすきなうし

Once upon a time in Spain
むかし---すぺいんに,
there was a little bull and his name was Ferdinand.
ふぇるじなんど という かわいい こうしが いました。
All the other little bulls he lived with would run and jump and butt their hands together,
ほかの こうしたちは, まいにち, とんだり, はねたり, かけまわったり, あたまを つっつきあったりして, くらして いました。
but not Ferdinand.
けれども, ふぇるじなんどは そうでは ありませんでした。
He liked to sit just quietly and smell the flowers.
いつも ひとり, くさの うえに すわって, しずかに はなの においを かいで いるのが, すきでした。
He had a favorite spot out in the pasture under a cork tree.
まきばの はしの こるくの 木の したに, いつも すわりに いく, だいすきな ばしょが ありました。
It was his favorite tree and he would sit in its shade all day and smell the flowers.
ふぇるじなんどは この 木が すきで, 一にちじゅう こかげに すわって, はなの においを かいで いました。

 仲間の牛とはちがい,花のにおいを楽しむことが好きなふぇるじなんど。お母さんは心配しますが,彼はそれを楽しんで日々をすごしていました。ある日,くまんばちの上に座ってしまったふぇるじなんどは,痛くて大暴れ。闘牛の牛を探しにきた男たちはその姿を見て,ふぇるじなんどは闘牛にもってこいだと,マドリードへつれて行くことに。大闘牛の日,喝采のなか,ふぇるじなんどは登場します。けれどもふぇるじなんどは,見物の女性たちが髪にさしていた花のにおいをかいで楽しむだけで,一向にたたかおうとはしません。ただ座って花のにおいをかいでいただけでした。

 なんともあたたかい物語です。闘牛に憧れる牛たちのなか,ふぇるじなんどはただひたすら花のにおいをかぐことだけを楽しんでいました。彼は彼自身でいることを楽しんでいたのです。この絵本を通じて,自分の好きなことを楽しむ幸せ,自分自身を受入れてもらえる心地よさを感じることができるでしょう。マドリードから戻って「He is very happy.(ふぇるじなんどは とても しあわせでした)」と終わる物語の最後にはホッとして,ふぇるじなんどの幸福を感じます。

 この絵本は1936年に出版されて以降,約60以上の言語で翻訳されてきました。一時は闘牛よりも花の香りを楽しむ牛の話に,平和主義のプロパガンダとしてみられることもありました。しかしながらこの絵本が長く読まれてきたのは,世界の子どもにこの作品が愛し続けてきたからといえるでしょう。作者のマンロー・リーフは友人でありこの絵を描いたロバート・ローソンにむけて,自由に描いてほしいとこの物語を書いたといいます。ローソンは銅版画に彩色をしないで表現しましたが,景色や人物がじつに躍動感あふれ生き生きと描かれています。コルクの木の下にすわるふぇるじなんどの姿に,みなさんは何を感じることでしょう。