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story今月のお話

2018年6月の紹介

Jack And The Beanstalk

ジャックと豆の木

There was once upon a time a poor widow who had an only son named Jack, and a cow named Milky-white.
むかし,あるところに,貧乏な後家さんがいたが,持っているものといえば,ひとりしかいない息子のジャック,それにミルキィ・ホワイトという名のめ牛だけだった。
And all they had to live on was the milk the cow gave every morning which they carried to the market and sold.
親子は,毎朝そのめ牛からしぼったミルクを市場で売って,やっと暮らしをたてていた。
But one morning Milky-white gave no milk and they didn't know what to do.
ところがある朝,ミルキィ・ホワイトの乳が出なくなったものだから,親子はとほうにくれてしまった。
“What shall we do, what shall we do?” said the widow, wringing her hands.
「なんてこった。ほんとうに,どうすりゃいいんだろ」。両の手をもみあわせながら,後家さんはいった。
“Cheer up, mother, I'll go and get work somewhere,” said Jack.
「そんなに気を落とすなよ,おっかさん。ぼくがどっかで仕事をみつけてくるから」。ジャックがいった。


 仕事がみつけられないジャックは,ミルキィ・ホワイトをふしぎなおじいさんが持っていた豆と交換しました。するとその豆からは,一晩で太い豆の木がはえてきたのです。その豆の木を登っていった天で出会ったのは,人食いの大男。ジャックは大男が寝ているすきに最初は金貨の袋,二度目は金の卵を生む金色のにわとりを盗んで家に持ち帰ります。三度目に金のたて琴を盗んで逃げようとすると,それに気づいた大男がすさまじい勢いで追いかけてきました。大男が豆の木を降りてくるのを見たジャックは,豆の木に斧を入れて切り倒し,大男をやっつけるのでした。

 『ジャックと豆の木』は有名なイギリスの物語で,ジェイコブスが採話した“English Fairy Tales”に収録されたものです。この物語のFairyは大男のことで,一般に想像されるFairyとは違うイメージですが,イギリスの物語にはさまざまなタイプのFairyがいます。

 ジャックが立ち向かう相手の大男は「人が食いたい どの子をとろか,イギリス野郎のうまそなにおい」とくり返します。そのことばは大男のやしきで隠れているジャックにとって大きな恐怖であり,生命の危険を感じたことでしょう。読者はこの大男が最後にはやられてしまうことを知っていながらも,ドキドキしながらこの物語を楽しみます。大男の存在が読者にとって,とてつもない恐怖であればあるほど,その物語は魅力的になるのです。

 このライブラリーの絵はきたむらさとし氏が描きました。男の子を描くことが多いきたむら氏ですが,この作品ではイギリスの田園風景のなかで冒険する少年ジャックを描いています。ジェイコブスは「昔話は耳で聞くのが何より一番」と話しています。俳優の久米 明氏がユーモアをふくんだ奇想天外なイギリスの昔話を語っています。大胆なジャックの冒険を,耳で聞いて,目で見てお楽しみください。