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story今月のお話

2018年5月の紹介

Sylvester AND THE MAGIC PEBBLE

ロバのシルベスターとまほうの小石

Sylvester Duncan lived with his mother and father at Acorn Road in Oatsdale.
ロバのシルベスター・ダンカンは,ムギ谷村のドングリ通りに,父さん,母さんとすんでいました。
One of his hobbies was collecting pebbles of unusual shape and color.
シルベスターの楽しみは,かわった形や,かわった色の小石を,あつめることでした。
On a rainy Saturday during vacation he found a quite extraordinary one.
夏休みのある雨の日に,シルベスターは,きみょうな小石を見つけました。
It was flaming red, shiny, and perfectly round, like a marble.
もえるように赤く光っていて,ビー玉のようにまん丸でした。


 シルベスターはひょんな失敗から,この小石に宿るまほうの力によって大きな岩になってしまいます。一人ぼっちで石になってしまったシルベスターの悲しみはもちろんですが,父さんと母さんは心配で心配でしかたありません。シルベスターを探しに探しましたが,秋がきて冬がきてもシルベスターを見つけることができませんでした。翌年の5月になって,父さんと母さんがピクニックに行った先で,この赤い小石を見つけました。「シルベスターが見たら,よろこぶだろうに」と言って,シルベスターである大きな岩の上に置いたところ,ぶじにシルベスターはもとに戻ることができたのでした。

 この物語は親子の愛情を描いた作品で,1970年にコールデコット賞を受賞しています。作者のウイリアム・スタイグはロバがいちばんのお気に入りの動物だったようですが,そのほかの作品ではネズミやブタなどの動物を主人公に多く設定しています。「動物を表すことで人間の行動を象徴的に描いているのだが,子どもたちはそれを物語のなかでのできごととしながらも,そこに描かれていることの本質をつかみ取ることができる」とスタイグは言っています。

 当時のすぐれたアメリカの絵本作家の多くがそうだったように,スタイグも広告の仕事をしていました。友だちに勧められてはじめて絵本を描いたのは60歳近くになってからのこと。「子どもは絵本からことばを学び,奇妙な音に敏感である」と作品の中で豊かでリズミカルなことばを選んでいるのが,子どもたちに愛される要因でしょう。

 日本語はいまやさまざまなジャンルで活躍している俳優,小日向文世氏の一人語りで収録しています。シルベスターや父さん,母さんの悲しみを表現しながらも,抑制がきいて自然な語りをお楽しみください。