This month's
story今月のお話

The King O'The Cats 猫の王

2025年8月の紹介

The King O'The Cats

猫の王

One winter's evening the sexton's wife was sitting by the fireside with her big black cat, Old Tom, on the other side,
冬のある晩のこと,堂守りの女房が暖炉のそばに腰をかけ,その向いに大きな黒猫のトムじいさんがうずくまり,
both half-asleep and waiting for the master to come home.
どちらもうつらうつらしながら,あるじの帰りを待ちわびていた.
They waited and they waited, but still he didn't come,
なかなか戻ってこないあるじを待ちくたびれたころ,
till at last he came rushing in, calling out,
風のようにとびこんできた堂守りが,大声でわめき立てた.
“Who's Tommy Tildrum?”
「トミィ・ティルドラムってなあ,誰のこった.」
in such a wild way that both his wife and his cat stared at him to know what was the matter.
そのあまりの剣幕に何が起きたのかと,女房も猫もあっけにとられて,堂守りの顔をみつめた.
“Why, what's the matter?” said his wife,
「いったいぜんたい,どうしたっていうのさ.」女房が いった.
“and why do you want to know who Tommy Tildrum is?”
「なんでまた,そのトミィ・ティルドラムとやらのことが知りたいんだよ.」

今回は、ちょっと怖いイギリスの昔話をご紹介します。

墓穴を掘っているうちにうたた寝をしてしまった堂守りは、「ニャーオ」という猫のなき声を聞いて目を覚まします。
墓穴から外をのぞくと、堂守の飼い猫のトムじいさんそっくりの黒猫が9匹、冠が載った小さな棺桶を担ぎ、三歩ごとに「ニャーオ」となきながら、近づいてきます。
そしてその話を堂守りが女房にしていると、猫のトムも相槌を打つように「ニャーオ」となきます。

棺桶を担いだ9匹の猫は堂守りのいる墓穴まで来ると、こう言います。
「トム・ティルドラムに、ティム・トルドラムが死んだといってくれ」
これを聞くと飼い猫のトムじいさんは毛を逆立て、金切り声を上げます。
「何だと、ティムのやつが死んだ! それじゃ、おれさまが猫の王になる番だ」

いかがですか?
猫が棺桶を担いで近づいてくるのも怖いですが、それまでずっと飼ってきた猫が突然人語(しかも不穏な)を叫びだしたらドキッとしますね。
猫のトムじいさんは、化け猫だったのでしょうか? それとも、猫はみんな人語を話し、自分たちの王国を持っているのでしょうか?

妖怪のような怪しい力を持つと言われる動物はさまざまありますが、その多くは、オオカミやキツネ、ヘビなど身近ですがちょっと不思議な印象を抱かせる動物たちのようです。
もちろん猫も、世界中で怪しい力を持つと伝えられている動物です。
どこかミステリアスな雰囲気を感じる猫だからこそ、こんな物語が生まれたのかもしれませんね。

またこのお話は、ことばも面白くできています。
ネコのトム・ティルドラム(Tom Tildrum)とティム・トルドラム(Tim Toldrum)は、”o”と”i”を入れ替えただけでできています。
また、トム・ティルドラムがだれだかわからない堂守りは、女房に「つまり、トム・ティルドラムが誰かということがわからなきゃ、ティム・トルドラムが死んだと、どうしてトム・ティルドラムにいえるんだい」と言います。
日本語でも早口言葉のようですが、英語でも”For how can I tell Tom Tildrum Tim Toldrum's dead if I don't know who Tom Tildrum is?”と表現され、口にして面白いセリフとなっています。

こんなことばの面白さも感じながら、暑い夏に少しだけ涼しくなってみませんか?